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No.44 希望は、 ことば

「希望は、 戦争。」 は31歳フリーターという青年が 『論座』 に投稿したエッセイの副題。 卒業時が就職氷河期で入りたい会社に入れなかった世代だが、 政策にも見捨てられてフリーターのままだ、 希望を持てない社会がこのまま続くなら、 社会を流動化してチャンスをもたらすかもしれない戦争に期待する若者が増えるという論旨だ。
平和な社会をと望むことが、 今の水準を落とさずに生活が続けられるよう望むことと同義になっているという指摘は鋭かった。 「『丸山真男』 をひっぱたきたい」 というタイトルにも、 うなった。 若者にワークシェアリングで職を譲ろうとせず、 たっぷり味わった豊かさをなお持ち続けようとする先行世代をひっぱたきたいというのにはリアリティがあった。
私は高卒の1961年、 岩戸景気でうるおう東京の大手電機メーカー研究所に採用された、 恵まれた先行世代の一人だ。 鍬を握っていた農家の倅が液体窒素をビーカーに注ぐ研究助手となった。 すがる母を振り切り田圃も捨てて上京した私のエゴは一年でピリオドを打たされた (母の病気)。
今夏、 上京の折、 元の職場を訪ねてみた。 研究所を囲む森は四六年を経て恐ろしいほど分厚く、 圧倒的な闇を作っていた。 門前にたたずんで、 自分はとてつもない回り道をしてきたのではという思いが込み上げる。 故郷に戻って高校の実習助手に雇われ、 転職の階段を探して苦しかった十数年…。 新人を労働社会に迎え入れる大きなシステムから一度はずれると、 道に戻れないもの。 詩を書いているというだけで目指した宣伝コピーのライター職に、 なかなか就けずにいた。 何が何でも言葉に繋がる職に就きたかった。 「希望は、 ことば」 と呟き続けた回り道のような道であった。 研究所の高塀に昼顔がぽっかり咲いていた。 (2007年8月1日 勝山敏一)