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No.32 人の心の動きようは百年たっても…

「感化院の出身なの?」
友人に真面目な顔で問われた。 年賀状に《私もとうとう執筆側に回ってしまいました。 『感化院の記憶』 という本を出します》と書いたからだ。《いや! 違うよ》一瞬、 その率直さに吹き出しそうになったが、 何か、 ドキリともした。
《ひょっとすると僕も感化院に入っていたかしれない》
思い返すと、 どす黒い悪への衝動を感じたことは確かにある。 誰もいない友の家で目にした新刊の少年雑誌……拾った財布の中に100円札が見えた時……少年期にわだかまったものが黒い塊のように胸奥から込み上げてくる。 思いをこらすと、 自分が本当に罪を犯してしまった少年のようにさえ思えてくる。
あの衝動を押しとどめたのは、 母の泣き顔? 友の侮蔑顔? 言の葉にのせてしまえば、 そんな顔が浮かんだ気もするが…浮かばなかったような気もする。 ただ、 焼けるように熱くて溢れようとするものにフタをする、 冷たい水のようなものがあった。 あれが私を押しとどめた。 本当に紙一重だった。
院長の娘として 「感化院で育った」 小沢梅子さんの記憶は克明であった。 例えば、 社会に出たK少年は数年後、 院を訪れて院長に殴りかかる。 じっと座ったまま殴らせる院長。《札付き》となった少年への世間の差別はあまりにも激しかった…哀切きわまりないK君の暴力に誰が抗えたであろう。 紙一重で渡ってきた私も、 うなだれるばかり。 少年たちが 「生き直す場」 感化院は、 児童自立支援施設と今は名を変えたが、 人の心の動きようは100 年たっても変わらない-深々と思いはそこに至る。 (2000年2月20日 勝山敏一)