No.24 ヒョッとすると、 ヒョッとする?
ものすごく売れた、 と言ったら小社では 『納棺夫日記』 の2万部である。 それが文藝春秋社に請われて7月に文庫になった。 小社の本の文庫化は 『長い道』 に次いで二度目だ。 今回は文庫化の後も少しずつ売れていく。 何より2%の版権料が入ってきた。 定価450円だが、 いきなり初版3万5千部。 計算してみて! 何もしない(?)のに 「ん」 十万円の収入だ。 自虐的で奇妙な喜びが…。 いや、 話がそれてしまった。
この本以外は売れていないから赤字で、 それでも売れるかもしれない本作りをシコシコ続けていると、 「ヒョッとする」 と思わせる事が時には起きるということを言いたかった。 一つは 「地方出版文化功労賞」 に小社の 『村の記憶』 が決まったという。 鳥取の今井書店さんの肝煎で作られた 「本の国体」 からの知らせだ。 今年で9回目のこの賞は小社への大きな励ましである。 今回が3度目の受賞。 『原色日本海魚類図鑑』 そして先の 『納棺夫日記』 と続いていた。 ちょうど在庫が切れかけていたので再版に踏み切った。 本の帯に 「受賞」 と大きく刷り込んだ。 再版にはいつも躊躇するのに、 なぜか軽快に決められたのは、 受賞が売行きを促進するかどうか計ってみたかったからかもしれない。 県内の廃村の全てを調査した本が、 元住民の方々が圧倒的な支持を表されつつ 「我が家のことが記載されていない」 という苦情も寄せられたのは辛かった。 編集者も私も幾つかの廃村を訪ね、 カマド跡の残る現地で哀切きわまりない思いをしたことがあるだけに、 表現のしようのない個々人の事情をどうするか、 それでも出来る限りの改版処理を施して再版した。 しかし、 受賞報道も小さくて、 今のところ動きはない。
二つ目は9月に飛び込んだ。 『粗朶集』 が 「泉鏡花賞」 の候補になったという。 新領域を開拓した凄い短編集、 と確信しての出版だったが、 全然売れずにいたので有頂天。 会う人ごとに受賞したかのように吹聴した。 著者は5年前に風の盆で有名な八尾町の山中深くに移り住んだ遍歴放浪の人。 これだけで神秘的だが、 あたかもその山中で語り継がれてきた伝説でもあるように短編は構成され、 飛ぶような勢いをもつ方言が効いていて類を見ない。 高名な評論家はもちろん、 考え得る限りのツテを頼って宣伝依頼をした。 が、 これまで書評も 『読書人』 以外は出てこない。 鶴首した受賞作の発表は一週間前だった。 そこに本書はなかった。 私の吹聴を笑う人に、 せめて次のことを告げずにはおれない。 最終候補3作品に残ったということを。 私はひたぶるに哀しい! (1996年11月2日 勝山敏一)