No.20 暑い夏が逝ってしまった……
6月22日 遠来の客あり。 秋田の出版社無明舎の代表、 阿倍甲さんが 「突然、 思い立って」 東京経由でわざわざ小社に寄られた。 同じ地方出版社とはいっても、 小社とは比較にならない優良企業 (?) で、 氏自身も次々と優れた話題作を、 これは中央の出版社から出している。 「今、 全国の地方出版社で一番注目されているのはお宅ですよ」 と励ましてくださる。 「良い本は売れない」 は誤り、 必ず良いものは読者の目にとまるのだから、 売り方のノウハウを考えよ―と熱っぽいレクチャーに圧倒された。
7月5日 気温はぐんぐん上昇して昼頃には40度を越える。 事務所のクーラーをかけっぱなし、 時々タバコを吸いに外に出ると、 一挙に汗が吹き出してくる。 何しろ、 僕を除いて全員非喫煙者。 僕は一年中コソコソと外に出てこの一本を吸うのだ。 午後書店への集金と配本のため、 車に乗り込んで飛び上がる。 シートが焼け付くようで皮膚が焦げそうだ。 今年の夏はどうなるのか。
7月16日 久しぶりに東京に出る。 新刊の 『公立美術館と天皇表現』 を20冊ぶら下げて関連集会に参加し、 そこで汽車賃くらい販売しようというわけ。 熱っぽい集会だが半分しか売れない。 重い残りを抱えて後は新宿での 「美術と美術館の間を考える会」 に出席する。 新しい雑誌を小社から出すことに決まり、 期待と不安が込み上げる。
7月18日 鳥取のブックインとっとり実行委員会から青木新門氏の 『納棺夫日記』 が地方出版文化功労賞に選ばれたとの連絡。 小社にとっては 『原色日本海魚類図鑑』 に次いで2度目のこととなる。
8月5日 事務所は2階屋の一階を借りているのだが、 後ろにある小さな庭の草丈がとうとう人の背をはるかに越え、 その向こうに見える立山連峰の視界をさえぎるまでになった。 みんなで 「そのうち照葉樹林になるよ、 教科書通り遷移すればね」 などと話す。 ただし、 近所からは顰蹙を買うかも。
8月15日 食糧庁に自分を告発するよう求めた川崎磯信氏をルポした 『オラを告発しろ』 の著者、 美谷克己氏が小矢部市の市議会議員に。 住民参加型の政治を地方にと訴え、 地盤、 血縁、 金…何もない中での奇跡的な当選だ。
9月2日 『納棺夫日記』 のファン、 名古屋の竹村さんが越中八尾のおわら風の盆を見に行く途中、 事務所に寄ってくださる。 哀調を帯びた胡弓の響きの中、 夜通しの舞が終わると、 本格的な秋。 重く垂れた稲の刈り取りも始まった。 大豊作だと言う。 そのことは日本のコメ農家に何をもたらすことになるのだろうか。
まぶしい日差しの中を、 自宅と事務所と書店とを往復しているうちに51回目の夏も逝ってしまった。 (1994年9月20日 勝山敏一)