富山の出版社 本づくりなら 桂書房

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No.18 『納棺夫日記』 の全国ベストセラーで…

3月に上梓した 『納棺夫日記』 がこれまでに一万部を越えた。 小社が初めて経験する部数である。 原稿を読んだ時、 これは多くの方が待ち望んでいた本になるという予感がした。 中央の出版社に持っていかれることになるのでは、 と覚悟したが、 地元で出すことに意義があるとの著者の強い意向であった。 地元紙の北日本新聞に激賞されやがて毎日、 朝日と大きく全国紙の文化欄に取り上げられた。
その朝から電話が鳴り止まない。 一日に300件の電話。 4人総掛かり交替で発送の仕事をするのだが、 一日に出せるのは150冊がせいぜいで、 しかも東京の取り次ぎ店からも500、 1000部と大量の注文。 それぞれ一日がかりの仕事となればどんどん注文の方が溜まってしまう。 10日たっても最初の4~5日目のご注文がさばけないでいた。 鶴首して待ってくださる読者の方にお詫びをしたい。
うれしい悲鳴なのだが、 常態とちがう状況に他の全てがとどこおってしまった。 他の著者の方々から進捗の催促やお叱りが相次ぐ羽目になった。 スガノ印刷さんも小社の外の出版 (いつも5~6種類くらい同時進行) を止めて、 増刷を最優先に対応せざるを得ない。 立てていた段取りはその度にキャンセルになる。 印刷所にかけた迷惑だけでも気が遠くなる。
本書が望外な読者を得つつあるという事実は私たちに至福をもたらしている。 著者と共に喜びたい。 一方で、 全国紙に紹介された時に全国の書店に置いてあれば、 すぐに読者のお手元に届き、 より多くの方々に読んでいただけるのにと、 地方出版の悲哀を感じたりもする。
大取次への委託はこれほど話題になった本なら可能なのだが、 借金だらけの小出版では巨大な返品のリスクは冒せなくて、 つまりは店頭に置けない。 書店からの客注文だけを扱う東京の 「地方・小出版流通センター」 が小社の唯一の取次なのだ。 地方で出版を続ける多くの出版社がたじろぐに十分な障害である。 もちろん、 それでも本は本自身に力があれば全国に流通するし、 小社も全国読者を求め、 出版を続けていく。
遅れている本の出版を心待ちにしてくださる読者の方々にはお詫び申し上げる。 稗田菫平 『翁久允』 廣瀬誠 『高志のまほろば』 石黒なみ子 『富山の伝説』 橋本龍也 『越中紀行文集』 犬島肇 『嵯峨寿安…』 浦田正吉 『近代下層社会の研究』 布目順郎 『古代絹文化の研究』 など、 早く読者にお見せしたい本がたくさんある。 なんとか8月半ばからは常態に戻れるよう頑張りますのでお許しを請いたい。 (1993年7月7日 勝山敏一)