No.14 出版の重みがひしひしと…
● 「メディアに描かれる女性像」 を発刊した。 様々な反響の中で、 私を脅えさせたのは 「あなたの家庭では女性差別はないのか」 という質問であった。 そう言われると本当に困ってしまう。 私は妻にこの本を見せられないのだ。 見せればジロリと睨まれるだろう。 きつい保母の仕事をズッと続けてきた彼女が家の食事や掃除、 細々とした家庭のメンテナンスを一手に引き受けて来ている。 四世代同居の私の家では役割分担を強いられてしまうのだ。 何もしない私がこの本の発行者になるなんて、 全く申し訳ないことで、 少しずつ少しずつしか差別を無くせない自分が情けない限り。 忸怩たる思いをしている多くの男性の中から一人でも実行に移す方の出ることを願うばかり。
●前回も書いた 「日本海魚類図鑑」 が再び話題になった。 鳥取県の読者諸氏や書店の方々が毎年行われている 「ブックインとっとり」 の4回目の今年、 本書が《地方出版文化功労賞》に選ばれたのだ。 大変うれしい。 表彰式は10月。 行ったことのない鳥取にも行ける。 しかし、 本書は品切れで再版は来年になってしまう。 著者の津田先生に早くとせっつかなくては…。
●少し愚痴をこぼさせていただく。 6月に刊行した 「目でみる越中真宗史」 が思ったより出ない。 新発見史料も多くしっかりした史観に基づく記述をされて、 今後の越中史の基本になると張り切っていたのだ。 書名が通俗的な感じを与えるのかもしれないが、 決してそうではない。 読者諸氏の一顧を願いたい。
●年末までに越中資料集成の第9回配本 「町吟味御触留」 を刊行と思っているが、 最近予約者の方々に配本しても、 お支払の方が1回分、 2回分と滞っている方が出て参りました。 この資料集成は長期間に亙るシリーズなので小社ではスタート時点に基金として、 200万円をやっとの思いで積み立て、 お支払いと併せてソックリ次の刊行に回すというヤリ方で続けて来た。 勿論、 巻によって欠損になる場合はほかの書籍の利潤から補填して基金だけは減らさないようにして来た。 お支払いの遅延はこのシステムを直撃して基金をどんどん減らすことになり、 小さい出版社としては大変苦しい状態。 どうかこの事情をご忖度願って、 気づかれたときお振り込みお願い申し上げます。 お支払い遅延は予約者が減るのと同じで定価が高くなることにつながりかねないのです。 高くなれば益々予約者が減り、 やがては刊行のメドも消える…。
●近刊予定を少し紹介しておく。 5年越しの企画 「富山県文学事典」 がようやく実現しそうで来年初めになる予定。 執筆者が20人もいらしてその間の連絡調節が大変。 登場者が亡くなられたり、 作品が発表されるたびに、 数年前に書かれた原稿を次々と書き換えてもらわなければならず、 書き換えばかりで終に刊行できないこともありうると心配していた。
来年の話は鬼も笑うというが、 この大著のことは言っておきたい。 絹博士といわれる布目順郎先生の 「繊維古文化研究」 が小さなこの出版社から出ることになった。 これまでの主要論文の全てを網羅して2000頁に及ぶ大著。 また、 昨年末に自宅火災で膨大な蔵書と研究論文原稿を全て焼失された高瀬重雄先生の新刊も企画され、 既に小社に手渡されている。 廣瀬誠先生の 「越中万葉と記紀の古伝承」 「高志のまほろば」 の二原稿も出番を待っている。 出版の重みがひしひしと我が身に伝わる。 (1991年9月30日 勝山敏一)