富山の出版社 本づくりなら 桂書房

富山の小さな出版社「桂書房」。富山での自費出版、本づくりならお任せください。

No.11 いつも見えない声が…

●小社の住所名から北代ハイツ103号室という文字が消えた。 つまり引越しをした。 すぐ近所なので電話番号は変らない。 編集の二人の女性は机に向かい、 小生は畳の間で座ってテーブルに向かって、 横の部屋に山のように積んだ在庫本をにらんでいた8年間。 お客さんがあれば座ってもらう場所にも困っていたし、 日当りも風通しも悪く、 仕事場というにはひどすぎたのだ。 今度の所は新築の貸事務所で何もかもピカピカ。 広くなり明るくなり、 窓からは立山連峰がすっかり見えるという好条件。 しかし家賃はこれまでの倍以上だ。 このところ小社は大型の本を5冊も6冊も出そうとしているし、 人から 「もうかってるんだね」 といわれたら、 さあ、 どう返事したものだろう。

 

●前号で 「創業以来の難所」 と書いたが、 少しつけ加えておきたい。 刊行の重なった出版物の中で最も大きなリスクを冒すのは 「原色日本海魚類図鑑」 である。 日本海にいる全ての魚774種を10年の歳月をかけて図鑑にしたいと執念を燃やしてこられた地元新湊市の津田武美先生からお話を伺ったのは4年前。 はじめは白黒でということで割と安易にお引き受けしたのだが、 本格的に編集に取かかられた先生が、 途中からどうしても原色でやりたいと本音を言い出された時は、 小生も本当に困惑した。 日本全部の魚類図鑑が既に出ていて日本海だけの魚類図鑑がどうしても必要だろうか。 しかし小生が断れば、 先生のこの壮大な夢は多分つぶれてしまうだろう。 オールカラーでやれば恐らく千数百万円はかかる。 1000部刷っても定価は3万円位にせざるをえない。 そんな高額な図鑑を誰が買って下さるだろうか、 いくら考えてもはっきりお客さまの顔が見えてこない。 困った。 小生に損をしてもまた取返せばいいという余裕 (貯え) はまったくない。 自転車操業もいいところなのだ。 しかし、 日本中で何でもいい本格的な図鑑を作れる人は何人もいらっしゃらないと、 思いは巡る。 折角の地元の先生の素晴しい壮挙をお前はつぶしてしまうのか、 という見えない声が聞こえる。 結局、 この声に参ってしまうのだ、 いつも。 まったく、 小出版社の身の程をわきまえない決断である。 なぜ刊行に踏みきったのかについて一文を記し、 後で悔いることのないようにしようと思う。 サイは投げられた。 部数は700部。 定価も四万円近くになってしまった。 今、 世界的に〈付属海〉の汚染が問題になっている。 地中海もそうだ。 日本海の生態を知る最も基本的な情報が魚類図鑑なのだから  と大きな理由も追加!

 

●越中資料集成シリーズが一年半も途絶えたため予約の方々から心配のお便りがたくさんあった。 ようやく 「應響雑記 (下)」 を5回目配本として刊行。 本書上下二巻で2000頁。 これを出版するためにシリーズを企画した訳だが、 まだまだ予約本が不足していて、 よくここまで来たと感激。そして前号でこのシリーズに別巻として 「越中真宗史料」 が追加されたことを報告しましたが、 さらに 「越中立山古記録」 も別巻二として追加せざるを得ないことになりました。 もう、 これ以上の追加はありません。 立山古記録の方は最初企画段階で組込まれていたのですが、 ㈱立山開発鉄道の方で刊行したいと申し入れがありはずしました。 が、 一般の方や全国の研究者の方々に普及するには出版社でないと難かしいから小社で刷増出版するよう著者の方々から要望もあってシリーズに復することになったのです。 全巻予約の方々には申し訳ありませんが別巻もご送付申し上げますので、 ご寛怒の程お願い申し上げます。 (1990年6月30日 勝山敏一)