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◆ 『内山逸峰紀行文集』 はお読みになったでしょうか。 朝日新聞に 「百代の過客」 を連載されて、 日記文学に真正面から取組まれたドナルド・キーン氏から 「あと半年早ければ、 取上げれたのに…」 とお便りがありました。 歌枕を尋ねる修行の旅なのですが、 事前に余程準備もし、 心も構えて、 60歳をこえてから7回も長旅に出る越中の長百姓の人間性が強く印象に残ります。 ひたむきで真摯な人柄、 何にでも好奇心を働かせて記録にとどめる態度。 歴史資料として第一級のものですが、 文学としても随分面白いと思います。
◆このあと、 もう一度日記資料に挑みます。 加賀藩氷見湊 (現富山県氷見市) の町年寄田中屋権右衛門が、 文政10年から安政6年まで幕末33年間に及ぶ詳細な日記 (「応響雑記」 と命名あり) です。 終戦直後に発見され、 柳田国男翁も是非刊行されたしと言われたものですが、 何しろ66巻にものぼる大部のもの、 私の計画でもA5判800頁が3巻になる巨編で、 誰もがしりごみしてきたものです。
内容は私生活はもちろん、 毎日の気象、 町の政治経済、 民生について金沢藩庁への請願陳情、 郷土の年中行事・災害騒擾、 俳諧や漢詩・絵画・謡曲・浄瑠璃・将棋・芝居歌謡など芸能全般にわたる事柄、 諸物価の記録まで地方町人の生活が目に見えるような記述になっています。 予約申込み制をとらして頂き、 昭和60年秋に第一巻目刊行の予定で、 目下地元の史家児島清文氏に解読注釈を鋭意すすめていただいているところです。 刊行の際はよろしくお願い致します。 (1984年10月 勝山敏一)