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佐伯哲也のお城てくてく物語 第8回

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佐伯哲也の お城てくてく物語

 

 

第8回 抜け穴・落とし穴伝説はほぼウソ

 中世城郭の伝承として多いのは、白米伝説・弱点を密告した老婆伝説、そして抜け穴・落とし穴伝説であろう。抜け穴は非常時の脱出用として掘られ、落とし穴は起死回生の防御施設として掘られたとされている。誠にもってロマンがあり、興味は尽きないが、実証することは不可能である。ほぼウソと言って良い。
 抜け穴の有名な事例としては、稲村城(上市町)・栂尾城(富山市)・井波城(南砺市)がある。伝承では抜け穴(トンネル)と城外は繋がっていたと伝えるが、いずれも入口から1~2mほどで埋まっている。実証することはできないが、未熟な当時の土木技術で、数百mものトンネル、しかも酸欠を防止するために空気を常時流通しているようなトンネルを掘れたとは毛頭思えない。やはり抜け穴の可能性は限りなくゼロに近い。
 それでは、抜け穴の正体は何なのか。稲村城の場合、入定窟(僧侶が穴の中で念仏を唱え、即身仏(ミイラ)になる洞穴)の可能性が残る。これも確証はなく、考古学的な検証が必要であろう。
 落とし穴は、魚津市山間部の城郭に多く事例が残る。敵軍の想定進路上に穴を掘り、敵兵を落として進攻を阻止したと伝える。しかし、これも現在はほぼ否定されている。
 落とし穴の正体は、一般家庭で使用されるケシ炭の穴、あるいは鹿穴と思われる。ケシ炭穴は、直径・深さ共に1m程度で、火をつけた木を穴に入れ、そこに土をかぶせて蒸し焼きにする。そうすると2~3日後に炭となる。寒さの厳しい山間部においてケシ炭穴は、無数に存在したであろう。それが山城にあれば、落とし穴として伝承されたのである。鹿穴は文字通りや鹿や猪を落とす穴である。
 「ほぼウソ」の裏返しは「少しはホント」である。ごく僅かだが、ホンモノの落とし穴も存在する。それは大道城(富山市)に残る大穴である。江戸時代から井戸と称されてきたが、虎口(出入り口)に隣接し、大穴を迂回しなければ虎口に入れない構造になっている。明らかに落とし穴の要素も兼ね備えた井戸である。一つの構造物に、異なる二つの要素を持たせることに成功した、カシコイ縄張りと言えよう。大道城(富山市)